近所の料理屋さんでカレーうどんを見つけた話
見つけてしまった。
なんだか人間は「あったらいいな〜、でもないよな〜」みたいなふわふわしたことを常に思いながら生きているんじゃないかと思う。
カレーうどんは大抵カレー屋さんにはないし、うどん屋さんにもない。
そう、謂わば幻のメニューなのである。
ちなみに筆者はまだこれを食べていない。
今度食べに行って写真と食レポをする。
ことの次第を順を追って話そう。
まず朝起きて12時ギリギリまで小説を読みふけり、バスを一本逃しながらバイトへ行ったのだが…
…(中略)
まあ、そんなこんなでインド屋の目の前にいたのだ。
だって、看板にはこう書いてある
カレー弁当
タンドリーチキンライス
ナントカライス
ケバブ
ALL¥500
税込みで500円なんて…しかもめちゃくちゃうまそう。
早速店の中に入りいまいち日本語の通じない店員になんとかタンドリーチキンライスを頼むことに成功した。
そうして筆者以外だれも客のいない店内で手持ち無沙汰になりメニューを開いたら、マァ……。
おそらくあのメニュー表は2000年あたりから一切変えてはいないのだろう。時代錯誤を起こしそうになりながら安すぎるが美味そうな品品達に目を通し、最後のすこし新しくなっているかしらん、という部分で見つけてしまったのだ。そう例の、あったらいいな〜
のやつである。
インドのスパイスとカレーうどん¥880
これはメニューの中でも比較的新しく、そしてマアマア時代に取り残されていないしかし安いと言える値段設定であった。
店長よ、それでいいのだ。
英世さんくらいだそうではないか。
しかし財布に手を伸ばしたところではたと気がついた。
自分はすでにタンドリーチキンライスをあのいまいち日本語の通じない店員に頼んでいたのであった。
…そういえば先ほどから店内はやけに静かでやたらと待たされている気がするが、大丈夫なのだろうか?
もしかして、彼は筆者が何を注文したのか忘れてしまったのだろうか。それならば、それでカレーうどんを頼めるので好都合ではあるが。
もしかして、彼は「ベントー」という部分しか復唱していなかったために、カレー弁当を製作中なのであろうか。それはそれで…マァ正直に言うと迷っていたのでいいが。
はたまたもしかして、彼は…間違えてしまった時用の詫びの品として、筆者に手渡す「ケバブ」を製作中なのであろうか。(ちなみにケバブはトルコ料理ではあるが看板には書いてあった。世の中にはつっこまなくていいこともあるのだ。何故なら台所にいるであろう調理師が実はトルコ人の父を持っていたなんてこともあり得るのだから。)
店員のやたらイケメンなバーテンダーのような装いをした彼はビニール袋を1つ携えて筆者の席まで戻ってきた。
「タンドリーチキンライスベントー」
…よくやった。やたらイケメンだがいまいち日本語の伝わらない店員よ。だがカレーうどんを是非とも試してみたかったものだ。
そうして私はスマートフォンを徐に取り出してこういった。
「あのぅ…スイカで」
彼は困った顔をしてこう言った。
「スイカわからない。タブン、デキナイ。」
たぶんってなんだ、たぶんって。
気を取り直して筆者はまたもこう続けた。
「そしたらカードで」
彼はまたなんとも綺麗なその柳眉をグッと寄せて、そして困ったように
「タブン、ツカエナイ。」
なぜだ。メニューが時代遅れだったからなのか、ここは平成に取り残された異空間だったのか。
そして君は新人なのか、なぜ新人が1人で店にいるのだ。
疑問は尽きなかったが幸い手持ちがあったためそれを彼に手渡した。
きっと、まだまだ財布なしで外へは行けない日々が続くことを思いながら。
東京の下町には未だにICカードもクレジットカードも使えないが、イケメンな店員と美味い飯、そして斬新なメニューの揃った外国籍料理が存在するのである。
帰路に立った時ふと思い出したのだ。自分が英語に多少の覚えがあることに。しまった、こちらが彼に合わせるべきであったのにすっかり失念してしまっていた。カレーうどんにこうも惑わされるとは。
次は彼に英語で対応してあげよう。